「Pythonで動かしながら学ぶコンピュータネットワーク入門」Udemy公開
- flyby
- 4 日前
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講談社から書籍『Pythonで動かしながら学ぶ コンピュータネットワーク』が 2025年7月17日に発売されました。執筆のきっかけは、講談社さまから「作って学べるネットワーク本がほしい」という相談を受けたことでした。この点については同じ感想を持っていたため、企画・構成から関わり、執筆を担当しました。ネット書店でも品薄になるほど反響があり、多くの方に興味を持っていただけて有り難いです。

本教材のコンセプトと特徴
この度、著者がオープンソースとして公開している資料とコードをベースに、Udemyにて「Pythonで動かしながら学ぶコンピュータネットワーク入門」を公開しました。これは上記書籍の理解を助けるような内容となっています。
従来、ネットワーク技術はプロトコル仕様を黙々と読む座学が中心で、学習者にとって退屈で分かりにくいものでした。特に初学者にとっては目に見えない仕組みや人為的なルールばかりで実感が湧きづらく、「面白くない」「難しい」という印象を抱きやすいと思います。(まさに同じ感想を持っています)
そこで本書では 「読んで覚える」だけではなく、「手を動かして作りながら理解する」 ことを重視しました。Google Colab上で動かせるシンプルなネットワークシミュレータを独自に開発し、読者自身がノード・リンク・パケットといったクラスを拡張しながら学べるようにしました。
初学者に配慮して、シミュレータは必要最低限の機能に絞り込みました。ns‑3のような高機能なネットワークシミュレータは研究用として非常に優れていますが、その反動として複雑で難しく、学習の敷居が高いことが指摘されています。今回開発したシミュレータは、ネットワークの基本概念を理解するために必要な範囲に焦点を当て、機能を絞って設計しました。また、Google Colabを使えばブラウザさえあれば環境構築が不要であり、OSの違いを意識せずに始められるのも利点です。
Google Colabノートブックとオープンソースコード
本書に掲載しているPythonコードや解説は、すべてGoogle Colabノートブックとして 「CoNeCo|コンピュータネットワーク with Colab」に公開しています。書籍で学んだ内容をすぐに試せるので、紙面だけでは理解しにくい細かな挙動も自分の手で確かめることができます。シミュレータのコード自体もGitHubで公開しており、演習用に自由に改変・拡張していただけます。CC‑BY‑SAライセンスで提供しているため、授業に組み込んだり機能を追加して別の用途に転用することも可能です。

なぜUdemy講座を開設したのか
コードと解説だけでも学習は進められますが、「詳しくはコードを見てください」だけでは、やはり取っつきが悪いこともあるのではないか、と思いました。そこで動画形式の教材を追加するため、Udemyに講座を開設しました。公開資料の内容をベースに、背景解説や設計思想を説明したスライドを新たに作成し、各回の考え方やポイントを動画で示しています。
ネットワーク技術はしばしば“ブラックボックス”と形容されます。目に見えない通信路で複数の要素が複雑に絡み合うため、パフォーマンスを評価するにはスループットや遅延、パケットロス率といった多様な指標を踏まえなければなりません。ns‑3の公式サイトに書いてあるように、この種のシミュレータは研究・教育用に設計された離散イベントシミュレータであり、開発者コミュニティが発展させ続けています。ただ、高機能ゆえに操作や設定が複雑で、習得まで時間がかかります。そこで今回、「誰でも手を動かして実験できる教材」を目指して軽量な学習用シミュレータをゼロから開発し、学習に必要な機能だけを実装しました。
背景と設計思想
NTT在職時代にはns‑2やns‑3といったオープンソースのネットワークシミュレータを使い、IEEE系の多数の国際会議やジャーナルで研究成果を発表してきました。これらのツールはさまざまなプロトコルやアルゴリズムを実装できるため研究用途には非常に便利です。しかしその反面、扱いが難しいところがあり使い手は非常に少なかったです。
近年は大学で授業を担当する中でも、ネットワーク技術を座学で勉強するしんどさ、みたいなものもよく感じていました。ただの暗記モノになってしまいます。とはいえ、実機で実験して学習するのも非現実的(機材コスト、環境整備の大変さ、通信したところで実感がない、など)です。
そこでシミュレータという形で「作って学べるネットワーク教材」を開発しました。全体として、学習に必要な概念を段階的に実装できるように構成しています。ノードやリンクといったクラスを自ら拡張し、ログを読み解きながら「なぜその挙動になるのか」を考えていくことで、教科書だけだとピンとこなかった部分を少しでも実感できたら、というイメージです。
一点、各プロトコルの標準仕様をそのまま再現しようとすると複雑になりすぎるので、学習用と割り切ってそれなりに簡略化して設計しており、実機とまったく同じ挙動を保証するものではありません。

おわりに
ネットワークはしばしばブラックボックスと称されますが、その内側では論理とアルゴリズムが淡々と動いています。本書とUdemy講座では、その蓋を開けてパケットが走る様子を自分の手で追体験できるように設計しました。ネットワーク技術に興味はあるものの、どこから手を付けて良いか分からないという方にこそ、本書とUdemy講座が役に立つと思います。ぜひColabノートブックや動画教材を活用し、楽しみながらネットワークの世界を探検してください。
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